100棟ビルダーへの道

野里泰造(株式会社リブ・コンサルティング)

はじめまして。

この度、100棟ビルダーへの道というテーマで執筆をさせていただきます株式会社リブ・コンサルティング経営企画室の野里です。

このコラムでは、景気の波に左右されずに、安定的に成長を遂げている住宅会社様の特徴を分析し、皆様の経営にお役立ていただく事を目的としてお届けいたします。

100棟ビルダーへの道 Vol.7

アフターマーケット編:新築以外の収益基盤の持ち方

フロー(新築)からストック(既存住宅)への転換

「アフターマーケット編:新築以外の収益基盤の持ち方」というテーマで執筆をさせていただきます
リブ・コンサルティング経営企画室の野里です。

今回は「フロー(新築)からストック(既存住宅)への転換」をキーワードに
「今後の事業戦略」について触れてみたいと思います。

あるシンクタンクによる将来予測では、2025年度には
新設住宅着工戸数が約60万戸まで縮小することが予測値として出されています。

こうした予測の背景には、人口や世帯数の減少、空家率の上昇といった避けがたいトレンドがありますので、
実際に60万戸まで減少するかどうかは不確かなものの、こうした流れは避けられないものでしょう。

また、何より国の住宅政策の流れが顕著に変わってきています。
これまでは、どちらかと言うと「ストック重視への転換と言いながらも、
新築事業者に対しては、まだまだ手厚い支援策を行ってきた」と言えますが、
それらもいよいよ限界に来ていると見られ、
「新築(フロー)市場から既存住宅(ストック)へ完全に舵を切り始めたこと」が伺えます。

実にここ数年でさまざまな方針、ガイドライン、政策などが矢継ぎ早にまとめられました。

その代表的なものは2012年3月に取りまとめられた「中古住宅・リフォームトータルプラン」です。

これは、リフォームによって住宅ストックの品質や性能を高め、
従来の「新築中心の住宅市場」から、中古住宅流通により循環利用される「ストック型住宅市場」への転換を目的としています。

さらに、2012年7月の「日本再生戦略」では、不動産流通市場の活性化や不動産流通システムの抜本改革に重点が置かれるとともに、2020年には中古住宅・リフォーム市場の規模倍増を実現する」といったスケジュール面での目標も提示されています。

また、2013年3月から「中古住宅の流通促進・活用に関する研究会」が開催され、
同年6月には「既存住宅インスペクション・ガイドライン」が策定されました。

そして、国土交通省が2014年4月に発表した「不動産に係る情報ストックシステム基本構想」に基づく新システムの試行運用や検証が、2015年中に一部地域で開始される予定となっています。

これは不動産取引に必要な物件情報を幅広く収集し、一元的に宅地建物取引業者へ(一部は直接、消費者へ)提供しようとするものです。

国土交通省による「長期優良住宅化リフォーム推進事業」が2014年2月に始まっています。

これは、「中古住宅・リフォーム市場の規模を倍増させる」といった計画に基づいた活動であり、
劣化対策や耐震性、省エネルギー性など住宅の性能を一定の基準以上に向上させるリフォーム工事費用に対して、 国が補助金を交付する制度となっています。

このように、住宅政策の主眼が既存住宅へ移行していることは確かなことで、
新築事業者にとっては最後の砦ともいえる政策的バックアップへの期待も薄れてきているのが現状なのです。

「ストック事業は儲からない」の誤解!?

市場、そして国策のバックアップといった背景はあるものの、そもそも「既存住宅を対象としたストック事業は儲からない」と思われている方も少なくないのではないでしょうか?

確かに新築事業に比べ、売上規模は小さく、積み上げがなければ大した収益にはなりませんし、
そもそも根本的に事業構造が異なります。

ただこのように、新築事業の延長線上でストック事業を捉えてしまいますと、
ただの「面倒くさい事業」にしか成りえません。

しかし、見方を大きく変えれば、住宅市場に関わらず多くの業界において、
中古売買やアフターメンテナンスといったアフターマーケットにおける事業の方がはるかに高い収益性を実現しているという事実があるのです。
例えば、代表的な例で言いますと、中古本の売買をしているブックオフと、一般的な大型書店との利益率の違いです。ブックオフの経常利益率が概ね9%前後であるのに対し、ジュンク堂や紀伊國屋書店といった有名書店は概ね1~2%の経常利益率です。

あるいは、メンテナンスサービスに目を向けてみても、新車販売を行っているディーラーの平均的な営業利益率が3%程度なのに対し、自動車アフターマーケットを専門にしている会社の平均的な営業利益率は10%以上といった水準です。

つまり、ストックをベースとしたアフターマーケットビジネスが「儲からない」というのは
実は誤解に過ぎず、むしろ収益性の高い事業と言えるのです。

先行する住宅会社の中には既に収益化を実現しています。

例えば、いち早くよりストックに目を向けてアフターマーケット事業を強化してきた大和ハウス工業では、
新築事業の営業利益率が3.4%なのに対し、住宅ストック事業の営業利益率は10.7%となっています(2014年3月期決算発表より)。

しかも、利益額そのもので比べてみても、新築事業が133億円、住宅ストック事業が93億円、と
その差は小さくなりつつあります。

つまり、「効率良く稼げて獲得できる収益も増やし続けられる」という点が、ストック事業の真の姿なのです。

「クレーム対応」から「CSのためのアフターサービス」へ転換することが不可欠

それでも実務を考えると、「いや、現実にはアフター=クレーム対応で、とても収益を生み出す事業などほど遠い」という印象も少なくないことかと思います。

では、どのような手を打てば、ストック事業を儲かるビジネスにすることができるのでしょうか。
一言でいえば「攻めのアフターサービス」への転換が不可欠なのです。

まず根本として、アフター要員がクレーム対応ばかりに追われてしまっている現状を変える必要があります。

クレーム対応は負の業務であり、何の収益も生み出さないからです。
実際に我々が調査したところでは、アフター要員の仕事の8割はクレーム対応で占められていることが分かりました。

また、クレームが発生する主な要因を洗い出してみますと、

施工品質が悪く、不具合が多い
対応が後手後手で、サービスそのものに不満を与えてしまっている
お客様への説明不足

といった点が挙げられます。

1つ目の施工品質の問題は、品質を上げるための施策が必要なため、
それはそれで重要なことでありますが、今回のテーマとは少し外れてきますため、
機会があればまた改めてご紹介させていただく事と致します。

実態としては、多くの場合2つ目、3つ目が直接的なクレーム要因になっていることが大半です。

つまり、本当はクレームとは言えないレベルの問題(不具合)にも関わらず、
対応に問題があるためにお客様の不満を招いてしまっているということです。

「攻めのアフターサービス」へ転換するためには、
この2つ目と3つ目の状況をまずは打開する必要があります。

具体的には、お客様にきちんと住宅の保証範囲やアフターサービスについて説明し、
「必要な定期点検は100%やり切る状態にもって行く」ということです。

ここで、より明確にイメージを持っていただくために、
ある住宅会社の取り組みについてご紹介したいと思います。

【ある住宅会社A 社の取り組み】

A 社は新築事業を始めて15年で、年間100棟ほどの完工規模の会社である。
これまでに引き渡した累計は約1,000棟で、そのアフターメンテナンスはこれまでたった1名の専属要員で対応してきた。

定期点検は6 ヶ月、1年、2年、5年、10年の計5回を行うことが形式的には決まっているものの、
実際にはやり切れてはおらず、日々連絡を受ける不具合やクレームへの対応に追われているのが実状だった。

定期点検をやり切れていないこともあり、
本来なら有償で受けるべき築2年を過ぎたお客様からの不具合についても、
「以前から問題があったのに、全然対応してくれなかったじゃないか」とお客様に押し切られることがしばしばで、築年数に拘わらず不具合が出たらやむなく無償で対応してきた。

結果として、年間の持ち出しコストは1,000万円強にも膨れ上がってしまっている。

このままでは、無償メンテナンスコストは引渡し数(ストック数)が増えれば増えるほど、膨らんでいくことは避けられず、 コストを掛けてもお客様の満足度は上がらない上にアフター要員はクレーム対応に疲弊するばかりで、悪い口コミすら広がりかねない状況は、まさに負のスパイラルに陥っている状態だった。

こうした状況をなんとか打開すべく、アフターサービスの在り方を根本的に見直すことをA社の社長は決意した。

まず取り組んだことは、アフターサービスの見直しだ。
住宅の保証範囲と期間をお客様に解りやすく伝えるためのツールを作成し、お引渡し時に説明する。

それと同時に、定期点検の実施タイミングや点検項目も整理し直し、
お客様にも必ず定期点検を受けてもらうことを理解いただくことにした。

さらに、お引渡し後6ヶ月の点検は、アフターメンテナンスというよりは実態は残工事処理に近い対応が殆どであったため、6ヶ月点検は工事監督が責任持って実施することとし、1年目の点検からアフター要員が対応するルールに変えた。

これにより、工事部門とアフター部門との責任範囲がより明確化された。

1年目点検や2年目点検の際には、点検結果をお客様にきちんと報告するとともに、
保証期間が終了となることの告知と、今後の不具合に関しては有償対応になることを説明することとした。

さらには、不具合とも言えないような問題で振り回されないようにするため、
「トラブルシューティングマニュアル」を作成してお渡ししたり、定期的に「お手入れセミナー」を実施して、ちょっとしたトラブルや、お手入れ不足が原因の不具合にはお客様ご自身で対応できるように啓蒙活動を行った。

こうした活動を実施していくにあたっては、組織体制も強化した。
アフターメンテナンス要員として工事監督経験のある60歳超の人財を嘱託社員として1名追加採用し、
また事務的なサポート要員としてパート社員の女性スタッフを1名専属で置くこととした。

この女性スタッフには、顧客情報の管理や定期点検のアポイント調整、点検結果記録の登録、
お手入れセミナー等のイベント企画やDM作成なども担ってもらっている。

こうした取り組みの結果、アフターサービスにおけるクレームは格段に減少し、
無償メンテナンスコストの削減に繋がっただけでなく、お客様の満足度が格段に高まり、

知人をご紹介いただくなどプラスαの効果も出始めた。

そして何より、これまでただクレーム対応に追われるだけであったメンテナンス要員たちの表情も明るくなり、自社のサービスに自信を持つように変わっていったのである。

いかがでしょうか?

A社の取り組みからも分かる通り、こちらの対応の在り方を「攻め」に転じることで、お客様の満足度は「不満」から「満足」に一気に反転します。

結果として、それがアフターサービス要員の業務生産性も飛躍的に高める事になるのです。

「放ったらかし」にされるからお客様はクレームを言うのであって、
きちんと定期的に対応していれば、多少の不具合でも「クレーム」ではなく「困りごとの相談」といった前向きな連絡に変わります。

大手ハウスメーカーやマンションデベロッカーでは当たり前の、定期点検の100%実施や保証期間の説明といったことが十分にできていないとお感じになられる場合は、これからのお客様の信頼を本当に勝ち得る事は難しくなるでしょう。

この機会に、「ストック事業は儲からない」という発想を転換し、「儲かるストック事業を確立する」ための対策を考えてみられてはいかがでしょうか?

リブ・コンサルティングについて
会社名 株式会社リブ・コンサルティング(LiB Consulting co.,ltd.)
事業内容 総合経営コンサルティング業務
企業経営に関する教育・研修プログラムの企画・運営
企業理念 “100年後の世界を良くする会社”を増やす
設立 2012年7月 社員数 85名
東京本社 東京都千代田区大手町1-5-1大手町ファーストスクエアウエストタワー20F
大阪オフィス 大阪府大阪市淀川区宮原4丁目1-45 新大阪八千代ビル 10階
韓国支店 CCMM Bldg 12,Yeouido-dong, Young deung po-qu, SEOUL

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